銀座の舗道は傾いでいた。
On February 21st
Leica R8, Elmarit-R 35mm F2.8, Toshiba 55mm SL-C Filter and FUJICOLOR (業)記録用カラーフィルム ISO 100
scanned with OpticFilm 7600i Ai (on SilverFast Ai Studio 8.2.0 r3)
小学校低学年だった頃、何度か母に連れられ訪れた銀座は、たいてい小雨混じりだった。
日産ギャラリーに展示されたフェアレディZのサファリラリーカーに興奮して食い入るように見つめたこと、みゆき通りを
歩いていて交差点を横断しようと見上げた先に信号がなくて驚いたこと、日劇と朝日新聞の最上階にお揃いで並んで
いた黒い丸窓が何となく薄気味悪く見えたこと…それくらいの断片的記憶しかない。
中高生になると、兄の読んでいた雑誌に感化され、たまに伊東屋や松屋やソニービルまで出掛けたり、予備校帰りの
地下鉄を途中下車して寄り道したりしたが、幼少期に「信号のない交差点の多い特別な街」として刷り込まれた銀座は、
当時暮らした中野新橋から近く足繁く通った新宿とは明らかに異なる街であり続けた。
二十代になると、銀座との関わり合いは、面的・質的・時間的に濃密さを増す。
…デートで初めて口にしたパクチーをカッコつけて完食した後で戻しそうになったのを、何とか切り抜けた八丁目辺りの
高速道路際の台湾料理屋台、「銀巴里」で唄い躍るナマ美輪明宏先生、夜のみゆき通り界隈を照らす巨大なボンボリ
のように見えた雑誌取材撮影中のナマ片桐はいりさん、「劇団自家発電」の芝居公演を手伝い出演もした銀座小劇場、
その斜向かいの一度も足を踏み入れたことのないキャバレー「白いばら」…そして、今も親しい人やそうではなくなった
人と一緒に、幾度も通った旧交殉社ビル一階のビアホール「ピルゼン」。
なぜか銀座に縁遠かった三十代を終え四十路に入ると、再び銀座に足が向き始めた。それは、写真やカメラに対する
執着が改めて芽生えてきたことと無関係ではあるまい。
この日の松屋中古カメラ市への往き還り、絶賛営業中だった「白いばら」を除いて、最早そこは二十代の頃の銀座では
なかった。それは至極当然の成り行きに違いないのだが、過去のものとなって消えた空間や時間と現在のそれらとの
間に横たわるコントラストに目が眩みそうになりながら歩く舗道は、至るところで車道に向かって傾いでいた。
点字ブロックの縁や舗装の凹凸や切れ目・段差のみならず、僅かでも左側に傾いだ路面を麻痺側の左足で踏んだ途端、
足首から下が内反して捻挫する恐れがあり、普段から些か神経質に目配りしながら足を運んでいるが、銀座の舗道は
目に見えて明らかに車道側に傾斜し、ブロックタイルは石畳のようにささくれ立ち、相対的に浮き上がった恰好になった
ビルの基礎との隙間は、所々セメントやモルタルで埋められていた。松屋のいちばん北寄りで銀座通りを渡る横断歩道
では、向こう側の歩道自体が松屋ごと、銀座通りの車道面から数センチくらい浮き上がっていた。
去年だったかその前年だったか、数寄屋橋交差点角にある有名中古カメラ店の、通りに面してラウンドしたウィンドウに
並んだ品々を見定めようとしたが、足元の舗装に不自然な急傾斜があって近付けなかったことがあった。
そのときたまたま表に出てきていた店の人が通りがかりの客か誰かに話していた言葉を今でも憶えている。
「…東日本大震災の後、ずっと地盤沈下が続いていつの間にか建物と路面に段差が出来てしまって、こないだ仕方なく
タイルを貼り直してもらったばかりなんですよ」
久しぶりにY氏と教会の上の中古カメラ浴も堪能した後、建物の耐震性の問題で間もなく閉店するニュートーキョーへ
入ろうとした際、関東大震災復興建築の数少ない生き残りの泰明小学校が健在だったのを見届けて安堵した。
数寄屋橋公園の南側が丸ごと工事用フェンスで覆われた一年ほど前に取り壊されたと思い込んでいた。
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