あと三週間
8時20分過ぎ、東京駅地下ホームからエスカレータを上って、いつものサンドイッチ店へ。
イチオシの「パスタチキン」がショーケースから姿を消して以来、二番手以下の四品から
ローテーションで選ぶのもそろそろ飽いた…と思った刹那、売れ残りの「ビーフミックス」
にふとフォーカスが定まり、オーダーする。レジのKさん、ようやく風邪が治ったらしく、
「はァーい」と応じ、かがみ込んで商品を取り出し、起き上がってナプキンとともに袋に
入れ、レジをたたいて袋を手渡す一連の所作は、いつもどおり。あと何回、こうした朝を
迎えられるだろう。
乗った総武快速が"終電車"ゆえ、霞ヶ関で丸ノ内線を下車し農水省前のタクシー乗り場へ。
1台客待ちしていた車は辿り着く前に先客に取られてしまったが、右に目を遣るとすぐに
白い旧型クラウンの個人タクシーが交差点を過ぎ、左にウィンカーを出して近づいてきた。
…予感は的中、久方ぶりにKさんのタクシーだった。
「お久しぶりです。えーっと、ロシア大使館…」
「はーい。大使館を過ぎて、最初の信号のとこまででしたね。分かってますから」
…と、まるで"いつものでお願いします"状態な車中。
父より年嵩のKさんのタクシーに初めて乗った朝は、こうではなかった。「えっ?!」と
ビックリしたように訊き返したミラー越しのKさんは、何だか不機嫌そうに強張っていた。
ところが、走り出してひと呼吸置くと打って変わったように柔和になり、その訳を問わず
語りに話し始めた。何でも、"ロシア"を"アメリカ"と聞き間違え、その数日前にアメリカ
大使館まで乗せた"ヤな客"が僕に似ていたために、「またコイツか!」と身構えたとの由。
以来、都合十回前後は乗って馴染んだKさんのタクシーに乗れなくなる日も遠からず来る。
午前中、地下書庫の整理を行う。病欠中に片付けられた僕の持ち物が入ったダンボールが
そこに移されていたことを思い出し、開梱する。そのほとんどが不要となった資料の類い
を指で手繰ってゆくと、ひとつの大きな封筒で不意に手が引っかかる。中見を確かめると
何と、かつて関わった劇団自家発電の脚本とチラシ、それに、友人Yたちと数年に渡って
制作していたCSラジオ番組向けの本読み原稿が入っていた。
「ビーフミックス」、もっと早くから目をつけておけばよかった。
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