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May 23, 2006

丸ノ内ノサムライ

先週のとある朝、東京駅で、パスネットを忘れてきたことに気づいた。地下連絡通路の右側、
JRの中央改札から丸ノ内線へ流れる、いつも身を預けている太い人波から左側に抜け出て、
改札向こう側に並ぶ券売機へ向かおうとした途端、前後左右がウソみたいにぱっと開けて
歩きやすくなり、何も遮るものがなくなった。

…ふと目をやった先、前方にある出口専用の自動改札機群を背に、五十がらみの背広姿の
男性が仁王立ちし、まっすぐこちらを見据えていた。
…が、目線は合わなかった。彼の眼は、僕の存在などすっ飛ばして突き抜けた先、背後に
ある"何か"に向かって見開かれていた。彼の立ち位置から右手側に一、二メートル離れた
床の上には、通勤カバンが、まるで客間に敷かれた座布団のようにキチンと置かれていた。
彼と彼のカバンを結ぶ線上はもちろん、すぐそばを往き過ぎる人はいなかった。そこから
微妙な距離を保ち、人波は蠢きながら流れていたのだった。

僕もそれに倣い、その前を迂回しようとする…と、突然、彼が大きく両腕を振りかぶって、
十字を切った。思わず僕は仰け反りそうになるが、勿論そんなことは彼の眼中にはない。
休む間もなく、腕のみならず全身を使って一連の舞を舞い、「真一文字に切って捨てる!」
…と蹲踞の姿勢に落ち着く。要するに、素手で"居合い抜き"を演っていたのだ。

急いでるからか見馴れてるからなのか、周囲の反応は淡白だった。僕のように初めて目撃
する人だっているはずなのに、まるで「そんなことに関わりあってるヒマはないんですよ…」
というフリをするのが、大東京ド真ん中の地下を行き交う上での嗜みでもあるかのように。

僕はといえば、さすがにその朝は面喰うのが精一杯…だけでは口惜しく、やはり同じフリを
マネるwことでお茶を濁した。とはいえ、毎朝進むこの地下連絡通路の人波は妙に折り目
正しく右側に偏り過ぎなのでは?…という違和感の原因が突き止められた気がして嬉しく、
それからの毎朝、ここを通りかかるときは不自然に開けた左前方の気配に注意を払うのを
怠らなかった。…だが、来る日も来る日も人々は、そこにはいないサムライの影に対して
微妙な距離を保ち、遠巻きにして蠢いていた。

そして今朝、ようやく、あるべき立ち位置に彼は立っていた。

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Comments

モーゼの海割れin丸の内。そのおじさんきっと会社で十戒を受けるのでしょう。今後ぜったい無遅刻無欠勤とか(←それは戒めなのか?)

Posted by: なるポン | May 24, 2006 at 02:11

サスガはソノ世界の女王さまw、見事な情景活写ですこと♪
…今朝は逢えませんでした。総武快速が遅れたからだと信じたいですw

Posted by: USHIO | May 24, 2006 at 12:24

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