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Apr 01, 2006

潤む

火曜の23時過ぎ、遅い夕食の傍ら眺めていたTVに、何の前触れもなく草生したボタ山
映し出され、目が釘付けになった。とるものもとりあえずPCを起動し、録画を始めた。
それは、小学四年から二年余りを過ごした筑豊の田川から峰を一つ越えた飯塚が舞台の
NHK福岡放送局・福岡発地域ドラマ - いつか逢う街 -だった。

去年、たまたま眺めていた日テレの十八番"オチのない怪奇モノ"の再放送の途中で、突然
筑豊の原風景に巡り逢えた余韻に身を任せたまま最後までつきあわされた轍は踏むまい
…と斜に構えながら、結局お仕舞いまで見通してしまった。が、今回は大正解。「涙ぐんだ」。
4月16日(日)13:50~14:49の再放送では必ず完パケ録画しておこう。

言うなれば、「オペラ座の怪人」と」「異人たちとの夏」の"ファンタジー"なところだけをプロットに
したようなストーリー。尤も、前者はB級映画版を断片的に観ただけだし、後者は原作を読んだ
ことしかない。ドラマで舞台の奈落に住んでいるのは、"怪人"ならぬ主人公の亡父の幽霊だ。

思わず眼が失禁してしまったのは、嘉穂劇場で上演された国定忠治のクライマックスだった。

十五・六年前に一度だけ、浅草に出かけナマで大衆演劇を観たことはある。だがそれはきっと、
芝居にハマりたいと願っていた若気の好奇心の至りの物見遊山目的だったはずで、出し物は
おろか、雰囲気そのものついての記憶すら残ってない。
それに対してこの国定忠治は、ドラマの劇中劇ながら、筆舌に尽くし難いほどにカッコよかった。
コレがまず肝腎なのだ。

やがて、玄海竜二扮する玄海京太郎が演ずる忠治が大見得を切る。

「…オレにゃ生涯ぇ、テメェという強ぇー味方が、…あったのだ!」

その直後、満座の大喝采が巻き起こる。客の入りはそれまで桟敷席に半分くらいだったのに
いつの間にか、立ち見やぐるりの二階席に、汗と埃と粉塵にまみれた炭鉱夫たち(の幽霊)が
ひしめき合い、「日本一!」「忠治ィ~!」「京太郎ォ~!」と、やんややんやさんざめいている。
もの凄い臨場感に圧倒される。
その光景を見上げて驚き、眼を滲ませながら花道を進む京太郎につられるまでもなく、大きな
ものがこみ上げ、どうしようもなくなる。その場にいる皆が皆、心の底から喜んでいるんだもの。
さっき、ちょっと見直したときもそうだった。今、こうして書きながら思い出すだけでも眼が滲む。

それは、かつて幾度か舞台に立ったこともある我が身に重ね合わせた郷愁などというレベルを
大きく超え、常に身を置いていたいと願う時空を味わえた幸福感と感謝の気持ちだったろうか。

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